Vanne Kuwahara|焼肉・蕃 YORONIKU

「DJ的発想」で組み合わせて作る、和牛の新しい世界

インタビュー

2025.08.18

DJの才能を活かして1997年南青山にクラブ「fai」をオープン、その後、焼肉への熱い思いが高じて、2007年に「よろにく」を立ち上げたVanneさん。肉を卵黄に絡めたりひと口ご飯を肉で巻いたりする食べ方や、焼き師がついて部位ごとに焼き方を変えるコースなど、それまでの焼肉の概念を覆した新・和牛料理のジャンルを確立させています。このたび、料理人と企業をつなぐウェブプラットフォーム「TasteLink(テイストリンク)」に加わっていただくにあたり、DJをやっていたからこそできる独自の発想方法や、焼肉というカテゴリの自由さについて語っていただきました。

AとBを組み合わせるのは「直感」

戸門:Vanneさん、飲食店のプロデュースなどいろんなお仕事をされていますが、仕事を受ける際の決め手は何ですか?

Kuwahara:シンプルに、自分が興味があるかどうかを優先していますね。

戸門:シルクロースとかトリュフすき焼きとか、焼肉の世界でいま広く使われているものでよろにくさん発祥のものは多いですよね。そういう、ゼロからイチを作る時の発想方法を教えてください。

Kuwahara:僕は感覚がDJだから、目の前のものを直感的に組み合わせるんです。やみくもにやっているように見えるかもしれませんが、そうではなくて、そこに行き着くには自分の中に引き出し、ストックがどれだけあるかがとても重要なんですよね。僕は子どもの頃からよく、「なんでこれがないんだろう」とか、「これってこうしたらいいのに」とか、歩きながら頭の中で考えるタイプでした。だから意識してストックしたつもりはないんですけど、子どもの頃からいろんなものに興味を持って、いつの間にかストックされていた感じですね。

戸門:組み合わせるときはどういうスタンスでやっていくのですか? たとえば、うまくいく確信がない限りは基本的にはやらないみたいな。

Kuwahara:常連さんとかを相手にまずやってみるんです。そこで場が盛り上がればOK、その判断基準もDJと同じですね。焼肉という業態だからこそそのアレンジが自由というか、いろいろやれるってことはありますね。日本料理やフランス料理では、料理の型が強固だからここまで自由にはいかないと思う。

戸門:Vanneさんのコースの中からメニューを何か切り出して店舗展開するとしたら、どのようなアイデアがありますか?

Kuwahara:これは店舗展開ではなく一軒だと思いますが、一つは和牛メインのバーですね。和牛をアラカルトで、そこにワイン、日本酒とウイスキーがあるような、外国人御用達のバー。というのも、うちのソムリエが外国人のフーディーをアテンドするんですが、落ち着けるバーがないらしくて。インバウンドでそういうものを求めている層があるんじゃないかって。滞在中にレストランは毎日行けないけど、バーなら毎日寄れる。そこで毎晩情報交換してもらえるような場所を作りたい。

出店先としてエジプトに注目する理由

戸門:海外に進出させるとすれば、どういうメニューなら可能そうですか?

Kuwahara:飛行機が好きなのでプライベートでも海外によく行くんですが、海外に出て行くんだったら、ハンバーガーかラーメンしかないような気がするんですよね。高級店、僕は最近、ジャカルタにオープンさせたんですけど、香港・深圳はなかなか難しかったですね。国によって求めるものも違うし、海外は流通事情の関係で日本と同じものを使えないし、もともと味の好みが違うのもある。日本と同じことをやっても難しい。それだけ苦労するんだったら逆に日本に行くよと言ってくれる人たちも多いですね。

戸門:海外で出店する場合、どういう国や地域に興味がありますか?

Kuwahara:最終的にはアメリカかなと思いますね。面白そうなのは中東かな? あとは牛肉の本場の南米とか。そこでしか作れないラーメンが作れるかもしれないじゃないですか。

個人的に興味があるのが新興国、子供が増えている国ですね。エジプトに2年前に行った時に、ここでジンギスカンとかやったらめっちゃ流行るだろうなって思ったんですよ。なんでジンギスカン鍋みたいなのないのかなって。エジプトは羊をみんな食べるし、人口増加率が高い国で、いま1億人ちょっとですが、2050年には2億人くらいになるらしくて、労働力も消費者もたくさんいます。そこに日本のものをそのまま持っていくのではなくて、マッチングさせる形で持って行ったら面白そうだなと思いますね。

戸門:Vanneさんが作るとしたらどんな調味料を作りたいですか?

Kuwahara:和牛シリーズ、和牛専門調味料みたいなのができたら面白いと思うんですよ。焼肉のタレはあるけど、和牛のタレはまだあまりない気がします。シリーズにして、例えば山椒醤油とか、ピリ辛醤油とか、ちょっと酸っぱめの醤油とか、贈答にも使えるような一つのブランドにするのはありかなと思います。

戸門:「贈答にも使える」というのは良いフックですね!

Kuwahara:贈答といえば、手土産って案外みんな困っていると思うので、だったら手土産まとめて一箇所で買える場所を作ればみたいなことも考えますね。どこかビル1棟ごととか…1階はパンの有名店が入ってて、2階がケーキ。地下は和菓子。で、上に行くと、製菓の材料。その上は料理教室みたいな。「手土産のマルキュウ(109)」ですね。そしてそれを宅配してくれるとか。自分がそこに参画するとすれば、将来的にはカレーとかハンバークでやりたいですね。

戸門:調理器具など、オープン時からずっと使い続けているような、これは絶対なくてはならないというものはありますか?

Kuwahara:トングですね。クイジナートのクイジプロというブランドです。他のトングも20本くらい試したんですが、繊細に掴むための先端の合わせ部分がずれているのが多いんです。これは自分の手のように使えるというか、本当に繊細で薄い肉でも掴めるし、10年以上使ってもちゃんと噛み合うんですよ。ただ日本ではもう買えないんです。国内の現行品には樹脂部分があって、オールステンがないんです。いまは手元にあるストックでつないでいます。

戸門:Vanneさん特注のトング「よろにくモデル」を作りましょうよ。

Kuwahara:マニアックすぎて売れないと思いますよ。だって、使ってるのうちだけだから。みんなピンセットタイプじゃないですか。でもあのピンセットタイプを焼肉に転用したのは僕が最初なんですよ。赤坂みすじで使ったのが最初で、そこで使い始めたら他の店にも広まった感じです。

和牛が「自由」と感じる理由

戸門:今後の展開で自分のアイデアを実現できるチームを作るにあたって、具体的にどういう形だとよりやりやすい、どういう人と組みたいみたいなものはありますか?

Kuwahara:同じ興味を持っていること、グローバル的な視野を持っていること、また同じセンスであることは重要ですね。あとはフラットで柔軟な見方ができるか。やってくれればですけど、世界のトップシェフとは組んでみたいですね。たとえばデンマーク「ノーマ」のレネ・レゼピシェフとか。若手の日本人シェフではスペイン「チスパ」の前田哲郎さんみたいな。

僕がやっている和牛というジャンルは自由なんです。何々料理のくくりがない。僕は何々料理ではなくて、和牛というくくりでやっている。そういう方はあまりいないのかもしれないですね。たとえば野菜なら、野菜で和もあり、洋もあり、しかもバラバラにならないように、ちゃんとその人の軸でまとめてるみたいな。そういう自由さを受け入れてくれる人とコラボしてみたいですね。

戸門:旅行がお好きということでしたが、今、企業やサービス、ブランドなどと組んでやってみたいお仕事はありますか?

Kuwahara:僕が一番好きな旅館は伊豆の「あさば」なんです。隙が無い美しさというか、歴史があって、能舞台もあって。それで考えると、和牛を生産している地域、特に但馬で肉に特化した旅館とかがあってもいいんじゃないかなと思っていて、将来はそういうのをやってみたいと思っています。

Text by 星野うずら

Vanne Kuwaharaのプロフィール画像

焼肉・蕃 YORONIKU

Vanne Kuwahara

1969年熊本生まれの実業家、プロデューサーなど様々な顔を持つトップシェフ。1997年に南青山でクラブ「fai」、2007年に焼肉店「よろにく」を創業。DJのREMIX発想を料理に応用し、部位ごとに味・焼きを変える“よろにくスタイル”で焼肉を刷新し、卵黄すき焼き・一口ご飯・シャトーブリアン薄衣カツなどを発信。季節食材のコースでも評価され、世界の食通やトップシェフを魅了している。

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