
辻 大輔|イタリアン・Convivio (コンヴィヴィオ)
「捨てられるおから」を料理に。料理人のサステナブルな挑戦
インタビュー
2026.10.10
東京・北参道でイタリアン「コンヴィヴィオ」シェフとして活躍する辻大輔さん。2012年開業、2015年に現在の場所に移転したのちも変わらぬ人気を誇っています。近年は、持続可能な海と食文化の未来を守るために活動する、国内シェフとジャーナリストによるチーム「Chefs for the Blue(シェフズ・フォー・ザ・ブルー)」での活動のほか、フードロス対策としてのおからの使用、商品化という挑戦にも注目が集まっています。辻さんに、フードロス対策についての現状や今後の課題について語っていただきました。
産業廃棄物として捨てられている「おから」の現状
戸門:おからは和食というか、豆腐につながるイメージで、イタリアンの食材とはギャップがあると思うんですが、辻さんがおからに着目したきっかけはそもそも何でしたか?
辻:知り合いがおからについて書いたコラムを読んで、自分自身、*おからは子どものころに実家でよく食べていて好きな食材だったんですけど、今、おからは豆腐店がお金を払って産業廃棄物として捨てていることを数年前に知って、これは何とかしたいと思いました。今、おからは、80年以上続く代々木上原の太田屋豆腐店さんから仕入れています。すぐに考えついたのはパスタに入れることでした。すぐ、コラムを書いた知り合いに送って食べてもらって、良い評価をもらえて手ごたえを感じましたね。
*おから…豆腐を作る過程で残る大豆の繊維質。年間70万トン発生しているが、食品としての利用はごく一部にとどまる。食物繊維やタンパク質を多く含み、料理に使うと汁気を吸い込みしっとり仕上げることができる。
戸門:おからパスタの生地が今の配合にたどり着くまでに、どのような試行錯誤がありましたか?
辻:おから自体、良くも悪くも保水性が高い食材なので、入れすぎるとベチャついたり食感が悪くなったりします。なのでおからは主役にするのではなく名脇役的に使おうと。その割合を見極めるのが大変でした。

戸門:通販やお土産用に作成されている3種のソース、トマトオレガノ/十勝ハーブ牛ラグー/カーチョ・エ・ペペの3種類に行き着いたのは、どんな候補の中からこの3つに絞ったのですか?
辻:実はデパートの催事などのときに昔からやっていたソースなんです。
戸門:パスタだけでなく、おからを牛肉に見立てた食材としてソースにも使っておられましたね。
辻:うちらしくて、そういう取り組みをしているソースを何か使いたいというので、牛肉のラグーソースに見立てたおからのラグーソース(「スパゲッティーニ・ラグー・フィント “OKARA”」)を出していた時もありましたね。
戸門:このパスタ、今後はどう展開していきたいというようなビジョンはありますか?

辻:お客様自身で麺を茹でてソースを絡めてもらうパスタをネット販売でやっていましたが、もっと簡潔にこのご時世、時短でできないかというので、電子レンジだけでできるように試作中です。
戸門:麺とソースが一緒になっていて、レンジ加熱ですぐ食べられる商品ですよね。このプロセスに行き着くのに、何が一番大変でしたか。
辻:仕上がりです。麺の食感とソースの絡み具合を均一にするのは、ご家庭の電子レンジ一つ一つに個性があるので、なかなか難しいですね。
戸門:以前お店で頂いた、「冷製トマトソースにバジルのエスプーマ」。あれがとても美味しかったです。あれは冷製パスタですけど、レンジ加熱用の冷凍のパスタとは配合を変えたりするんですか?
辻:配合は一緒です。実は冷凍のパスタに片栗粉を入れることで弾力が増したんですね。喉越し的にもお客さんにすごく評判が良かったので、逆に営業用のパスタの方をそちらに変えました。
戸門:もしそれを、例えば、食品メーカーのような企業と取り組むとなった時に、どういうサポートがあると仕事としてやりやすいですか。どういう形の関わり方がよいとか。
辻:個人店なので、量産はやはり難しくなります。そこの手助けをやってほしいですね。僕らは料理人で、手は動かしたい部分がありますが、限度があるので、そこを手助けしていただければ。
「住みたい」という情熱だけでイタリアへ
戸門:料理人になったきっかけを教えてください。料理を学ぶ前にイタリアに行かれたそうですね。
辻:高校が進学校で、大学に行くのが当然という、敷かれたレールの上を動かされてるような感じがして、大学受験はやめて何かをしようと思いました。ただその「何か」が決まらなくて、その時にイタリアの美しい街をテレビで見て、行ってみたいと思ったのがきっかけです。料理人の修業としてイタリアに行くのではなくて、最初はただイタリアに住みたいというそれだけで1年間アルバイトをして、現地に行って料理をスタートしました。
戸門:現地では言語などいろいろ課題があったと思うのですが、印象に残っている出来事はありますか?
辻:日本の料理人が海外で修行するとき、言葉は話せなくても魚をさばけるとか、仕事がきれいとか言われるんですけど、僕は話せないし、料理もできないし、魚もさばけなかった。お前は一体何(なに)人なんだって感じの扱いをされて悔しくて、実際自分は何が出来るんだって考えないといけないという、そこから料理にのめり込むようになりましたね。
戸門:いま、辻さんの得意なことや強みはどの辺にあるとご自身では考えておられますか?
辻:イタリアンやってますけども、和食材を使って、イタリア料理に落とし込むのは、意外と、自分の中では、面白くやってますね。なので、料理に関して言うと、色々な食材を使って、柔軟に表現はしていけるのかなと思います。
戸門:料理はいつも、どういうところからヒントを得て作っていますか?
辻:ネット販売も含めて日々の料理ということでいえば、うちは、基本的には月替わりのコースで、旬の食材から料理構成を考えています。なので、食材ありきプラス、いろいろと去年など過去の料理を見つつ、どういう風にブラッシュアップしていくのかを考えながらやっています。
戸門:いま、メニュー開発などで力を入れていることはありますか?
辻:食事中に飲むためのノンアルコールを今、自分たちで作るようにしていまして、取材時(8月)は桃なんですけども、ビネガードリンクを季節ごとにフルーツを変えてやっていきたい。というのも、既製品のコーラや果物系のジュースは、料理に合わせるには甘みが強すぎるような気がするんですよね。また、アルコールを飲む方が体感的に減ってきている部分があって、飲めない方たちにも何かしら楽しんでいただきたいというのもあります。
「健康」というキーワードで訴求する
戸門:フードロスを意識した商品を開発する場合、意外と送料や手間がかかって価格を下げにくいという現実があります。どうすれば商品価値が上がり、お客様から支持されるものになると思われますか?
辻:SDGsや社会貢献という言葉は、今の日本では逆に響きづらいのかなと日々感じています。実は過去、年間にそれなりのお金を払って、サスティナブルシーフードの認証を取っていたんです。魚介類には*MSC認証とASC認証という認証制度があって、そのシールを貼っている商品は、これだけ環境に気を使った商品だよというのがわかるものです。1~2年やっていたんですけどあまり効果がなかった。海外では当たり前の認識も、日本ではまだそこまで一般的ではないなと感じました。
*MSC認証・ASC認証…持続可能な水産業を守るための国際的な水産エコラベル。MSCは天然、ASCは養殖の水産物が対象で、環境や地域社会への配慮などが審査される。認証水産物を扱う店舗も、適切な管理について、第三者機関の審査を受ける費用が発生する。
戸門:お客様に対して説明をしてもあまり反応が得られなかったということですか?
辻:興味を持ってはいただけるんですけども。ネット販売のように直接の売買ではないときに、お客様の反応・関心がすごく弱くなるように感じました。でも、今も引き続きその認証を取っている魚種を使ってはいます。
戸門:お客様に倫理的な側面を説くよりも、別で何か興味を持つ切り口を作って、それでみんなが好んで食べた結果その食材の廃棄量が減らせています、という状態を作らなければいけないという話ですよね。おからについて、こういう形ならお客様に刺さりそうというヒントはこれまで何かありましたか?
辻:「おからはタンパク質が豊富だから、プロテインパスタって謳(うた)えるんじゃないの?」みたいな話がお客様から出たこともありました。SDGsや社会貢献とかは後付けの方がよくて、「これを食べていると体にいい」というような切り口の方がお客様に入りやすいかなという気はしますね。
戸門:機能性食品の方に寄せるということですね。近年、忙しいときに日々の食事を短時間で食べるときに、栄養をどうやって効率的にとるかを考える人が増えていますね。
辻:そうですね。ファミリーレストランで「カロリーを考えたコース」みたいなフェアがあったり、コンビニでも商品の裏の栄養成分を見る人が増えましたね。
戸門:シェフのブランドを壊さずに、TasteLinkと一瞬に、こっち側でコラボして、プロテインパスタを作るというやり方もあるのかなと思います。
辻:僕個人でやっているので、ブランディングのような部分はどうしていいのか分からない部分です。やり続ければそのうちと思いながらも、なかなか効果が出てこない部分ですね。
戸門:おからやサスティナブルシーフードなどのように環境を考えたり、サステナビリティ(持続可能性)に配慮した取り組みの中で、他に気になっているものはありますか?
辻:おから同様、食べられるのに使われていない食材、実は他にもいろいろあるんです。その中でも酒粕が気になっています。この前、福井県の酒蔵さんに行った時に、おからの取り組みをお話しすると、それなら酒粕はなんとかならないかというお題をいただいて。
戸門:酒粕もおから同様に捨てられているんですか?
辻:一部は再利用されていますが、全く間に合ってないと思います。なので、少し前から僕も酒粕のパンナコッタを作ったりしてるんですけど、それ以外にもアイスクリーム、セミフレッドなど、使える時は少しでも使おうと思っています。

自分の料理で社会貢献できたらかっこいい
戸門:レストランと違う取り組みで何かやりたいのはありますか。
辻:商品開発とか、いろいろな食材を試せるような厨房にはしていきたいですね。ここの厨房は、良くも悪くもダイニングと分かれているので、菓子製造業や冷凍食品製造業の免許が取得できたのも、ここが分断されてるという衛生的な面もあったから取れたので、その強みをどんどん活かしていきたいと思います。
戸門:今後、お仕事をこんな風に広げていきたいというような夢はありますか?
辻:最終的な夢は、世界的に何かしら、おからを使った商品を食べられるように活動していきたいということです。貴重な食材が産業廃棄物として扱われている現実を前に、ご飯を食べられないような子どもたちにも栄養をどうつなぐかという取り組みにまで繋げられたらうれしいです。
戸門:素晴らしいですね。どういうところからそういう動機が出てきたのですか?
辻:二十代前半、イタリア生活を始めたぐらいのときに「自分の料理で何か社会貢献できたらかっこいいな」と考えていたんですよね。それを最近思い出して、だからこそ今の活動を何かしら、年を重ねていっても続けたい、きれいごとだけで終わらせたくないというのはあります。motivo(動機)は、正しさ、かっこよさ、ただそれだけですね。
Text by 星野うずら
━━━
このシェフの発想を、自社の商品開発に取り入れる方法をご存知ですか?
→ ChefDeck

イタリアン・Convivio (コンヴィヴィオ)
辻 大輔
Daisuke Tsuji
1981年京都府生まれ。20歳で渡伊し、トスカーナやミラノなどで5年間修業。2006年に帰国後、「ヴォーロ・コズィ」「ビオディナミコ」を経て、2012年に新宿で「コンヴィヴィオ」を開業、2015年に北参道へ移転。伝統的なイタリア料理を基盤に和素材や和の器を取り入れた料理を提供するほか、おからを使ったフードロス対策にも取り組む。
詳しいプロフィールはこちら