
中東 俊文|イタリアン・ristorante DONO(リストランテ ドーノ)
環境の循環を追求してきた僕が「遊ぶ」をコンセプトにする深い訳
インタビュー
2026.01.19
料理一家に生まれ、現在は京都・岡崎に「ristorante DONO」を開業する中東俊文さん。父中東久雄さんは京料理の名店「草喰(そうじき)なかひがし」を創業、長男の克之さん、次男の俊文さん、三男の篤志さんはいずれも、京都を拠点に料理に携わっています。このたび、中東俊文さんに料理人と企業をつなぐウェブプラットフォーム「テイストリンク」に加わっていただくにあたり、料理を通して環境の循環にコミットする現在のコンセプトの背景や、いま気になる他分野の魅力について語っていただきました。
「『ファームトゥテーブル』を東京で」に至った訳
戸門:日本料理ではなくて、なぜイタリアンだったんですか?
中東:京都のイタリアン「カーザビアンカ」に連れて行ってもらったのがきっかけでした。中1の中間テストの時、母親がカーザビアンカに連れて行ってくれたんですよ。コックコートを着て働く人たち、中でもシェフの那須昇さんが圧倒的にかっこよかった。その時食べたのは馬肉のタルタルとタコのアラビアータ。今でもはっきりと覚えています。
戸門:中東さんが今の「ファームトゥテーブル」の料理スタイルになった背景にはどんなことがありましたか?
中東:父親(中東久雄氏)の影響もありましたし、イタリアでの修業時代の経験も大きいですね。当時、父がファームトゥテーブルと同じことを京都で始めた時期と同じくして、僕がヨーロッパで師事した店でも全く同じことをやっていました。朝、シェフは、地元の農家に野菜をもらいに行ったり、チーズやきのこを届けてもらい、そこから料理を組み立てていました。そのことに加えて、偉大なイタリア人のシェフの下で修行した僕の師匠たちが、そういうエピソードを日頃からいろいろ語ってくれたことが礎(いしずえ)となって、今の僕の料理スタイルにつながっています。
戸門:中東さんは、「ristorante DONO」を開業するまで長く東京で活動されていましたね。「ファームトゥテーブル」を東京で実現するのはなかなか難しいのではと思うのですが、その考えに至るまでにどういうことがあったんですか?
中東:生きた鮎を求めてあきるの市を訪れたことがきっかけでした。10年前に32歳で西麻布に「エルバ・ダ・ナカヒガシ」を立ち上げた時、最初は父に頼んで京都から野菜を送ってもらっていたんです。でも、イタリアで自分が学んだこととやっていることが違うと思い始めて。そのときに、美味しいと思える野菜の生産者を道の駅などでいくつか見つけ、近郊の山で山菜や活ける花を採取しているうちに、地元の農家さんと直接取引できるようになったんです。そうこうしているうちに、あきる野市近郊の環境が、京都の大原に似ていることに気づいて、ここなら自分の父や、イタリアでみんながやっていたことを自分もできるのではないか、そして東京でできるなら世界中どこに行ってもできるのではないかと思いました。

「遊ぶ」をコンセプトにした理由
戸門:中東さんは「エルバ ダ ナカヒガシ」の時代から、お店で出た食材を余さず使い、端材は肥料にしてというような、環境の循環を意識なさっていますよね。どういうことを一番大事にしていますか?
中東:環境の循環を思想的に突き詰めすぎると、修行僧みたいになってお客さんにも重いんじゃないかって思いはじめたんです。これは楽しんでやるべきことだし、楽しんでこそ後進が続いてくれると思ったので、今はそれを楽しんでやることを心がけていて、自分の中では「地球と遊ぶ」というイメージで取り組んでますね。仕事みたいにやっちゃうと楽しくない。楽しみながら働く方が持続性もあると思うんです。その楽しさを自分が受け取って料理にして、お客さんの笑顔につなげる起点なんで、生産者さんの表情は僕は結構大事にしていますね。
戸門:食関係で、最近注目している分野やブランドはありますか?
中東:日本草木研究所というブランドを立ち上げた古谷知華さんです。古谷さんは日本の野山に入って在来食材を探索研究していて、クラフトコーラやコーディアルをはじめさまざまな商品化につなげる活動をされていて、自然の恵みを採集する「フォレジングツーリズム協会」を運営されています。彼女の作るスパイスやハーブが面白いのももちろんあるのですが、活動の前提として社会貢献の意識があるのが大きいですね。彼らと話していると、社会貢献が楽しいという考え方でお互い同じ景色が見えている感覚がありますね。
戸門:興味がある食材や調味料はありますか?
中東:発酵ものですね。麹で今いろいろやっていて、お酢も自分で作ろうと思っています。うちで出しているじゃがいものフォカッチャ、皮が捨てるものとして必ず出るんですけど、そのでんぷんを麹で糖にしてお酢を作って、野草サラダのドレッシングにしています。麹は京都・宮津市の上世屋(かみせや)という小さな集落で作られていて、それが村の重要な作物でもあるので、地域貢献と考えて使っています。
戸門:中東さんが思う定義としてのおいしさはどういうものですか?
中東:僕は「体の健康に直結するもの」と定義付けています。口に入れるものは自分の健康をつかさどるものだから、食べた次の日に体調がよくなるようなものがおいしいものだなと、それを感じられるように自分の味覚を研ぐのは日々やっています。
戸門:今、取り組みたいことや、関心のある領域は何ですか?
中東:医療関係の人と共同で研究したい。今は体感でおいしいかどうかという、経営の指標にしにくいもので店をやっているんで、それを医療機関と組んで美味しいの基準を目に見えるものにしたい。例えばここで食べればこれくらい健康になりますよみたいなことがわかれば、僕らみたいなレストランがより価値を持って選ばれるようになるんじゃないかと思っています。あるいは、先ほどのフォレジングツーリズム協会もそうですけど、自然をもっと知り、知識を深め、伝える仕事もしたい。自然をリジェネラティブ(元よりも良い状態へ積極的に作り変える)に改善できる企業と組めたらと思います。

料理に時間をかけたがらない日本人
戸門:時間がない時の食事は、どうしても、時短イコール不健康的なものになりやすいと思うのですが、俊文さん自身は時間がないときにどういうものを食べていますか?
中東:時間がないとはいえ、パスタなら20分で作れますし、日本料理だって玄米を研いで30分浸水して15分炊いて、1時間で食事は作れます。そこに旨味を補うには麹が適任だと思いますね。日本は麹にすごい適した環境なんで、味噌だって驚くほど簡単に作れます。ほんの50年くらい前は家庭で当たり前にやっていたことです。
戸門:日本とイタリア、食に向き合う姿勢が大きく違うような気がします。日本では忙しすぎるのか、料理に時間をかけようという風潮が今はあまりない、一方でイタリアでは、スローフードの考え方が今でも残っていますよね。その違いはどこにあると思いますか?
中東:国民性じゃないですかね。日本が忙しそうにしているのは300年の昔からそうだったわけではなくて、たとえば今、江戸初期のお皿の絵付けを見ると、すごい雑なんですよ。でもその一見雑に見えるところに遊びや余裕が感じられていいなと思うと同時に、これが本来の日本人の性質なんじゃないかと思うんですよね。今の日本人は真面目で遊びがなくて、自分の体や家族を大切にすることをおざなりにしていると思うので、昔に返るじゃないですけど、生活の基本として、自分や家族の健康を大切にすることにもうちょっと重きを置いてもいいんじゃないかと思いますね。
イタリアの人が「北イタリアに住みながら南イタリアの野菜を高い輸送費をかけて買う」みたいなことをなぜしないかというと、マルシェがたくさんあって、いつもその曜日のこの時間はここに買い物に行くというのが生活のサイクルとしてできているからなんですよ。だから東京なら青山のファーマーズマーケットもとてもいいと思うんですよ。ただ、日本の場合はやりたい農家さんが少ないので、テコ入れできたらなと思いますけどね。

「食育」の大切さ
戸門:健康的なおいしいものって、子供の頃から舌が慣れ親しまないと、なかなかそうなりにくいですよね。
中東:うちの子が小学6年生になって、食育は大事だなと改めて思うんですよね。保育園の頃まで野菜が大好きだったのに、小学校に入った途端に野菜が嫌いになってしまった。それは完全に食材のせいだと思っていて。これだけおいしい食材がある国で、食育をやっていかないともったいないなと。
戸門:ほうれん草一つとってもそれは同感です。スーパーマーケットのような色々な世代の人が集まるような場所で、子供向けにミネストローネを作るようなイベントをやっても面白いかもしれないですね。
中東:実はこれまで何回か、子供向けに野菜のおいしさがテーマのイベントをやってきてまして、この活動をもっと広げたい。こういうイベントを通して子どもたちに野菜のおいしさを知ってもらったり環境のことを考えたりしてもらえればいいなと思うし、ついでにうちの店のことも知ってもらえると嬉しいです。店名のDONOとはイタリア語で「お裾分け」。大自然の恩恵をお客様にお裾分けするという気持ちでやっていますね。
Text by 星野うずら

イタリアン・ristorante DONO(リストランテ ドーノ)
中東 俊文
Toshifumi Nakahigashi
京都出身の中東俊文シェフ(1982年生)は、京都「ristorante DONO」オーナーシェフ。父は名店・ミシュラン二つ星「草喰なかひがし」店主で、幼少期から料理に親しむ。18歳で渡伊し星付き店で研鑽後、野菜とジビエを軸にサイフォンで香りを移す独自技法と“廃棄を極力出さない”哲学で注目。2025年ミシュラングリーンスター取得。
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