後閑 信吾|SG Group ・ファウンダー

バーを日本人にとって「普通」のものに

インタビュー

2026.07.15

国内外でバーを運営するSG Groupを率いる後閑信吾さん。2026年には同グループ「The SG Club」の姉妹店「Sip & Guzzle(シップアンドガズル)」(ニューヨーク)が、北米地域のベストバーを決める「North America’s 50 Best Bars 2026」で1位を獲得という快挙を成し遂げました。バーテンダーとして2012年には世界一を獲得、上海・東京・沖縄などで個性ある店舗を運営、また近年は国内酒造との協業を通して焼酎や泡盛、リキュールの普及を目指す後閑さんに、カクテルクリエイションの思考法やバーテンダーとしての哲学、日本の酒「國酒」の未来について語っていただきました。

仕事もカクテルも「混ぜて良いものを作る」

戸門:後閑さん、近年はJALのカクテルアドバイザーなど「バーカウンターの外」に出ていくお仕事が増えていますが、そうした仕事を通じて、バーの中だけでは見えなかった気づきはありましたか?

後閑:バーに普段行かない人に対してのアプローチを考えることがすごく多くなりました。アメリカと比べて、日本はバー業界自体がまだ小さく、カクテルを飲まない人の方が圧倒的に多い。だから「The SG Club」を作った時から、別の業界のファンに興味を持ってもらうために、バーとは関係ないコラボレーションのイベントをたくさんやりました。たとえば靴磨き職人や落語家、また盆栽アーティストの方などとコラボしたこともありましたね。

戸門:現場に立ちながらプロデューサー業務ができたりコンセプトを言語化したりできる飲食業界の人は多くないと思いますが、後閑さんはどこでそのようなスキルを習得されましたか?

後閑:仕事もバーテンディングと同じ、それぞれを材料として捉えてカクテルを作るみたいなことをずっとやってきているのかもしれません。異なる材料を組み合わせてより良くするのがカクテルメイキングで、プロデューサー業務も、たとえば、このメニューとこのコンセプトとこのチームを組み合わせるとどんな化学反応が起きるかみたいな、その一つ一つの素材として捉える感覚なんですよね。

戸門:上海、ニューヨーク、東京、香港とそれぞれの都市でバーを展開されていますが、同じカクテルでも都市によってゲストの反応が違うということはありますか?

後閑:マーケットが変われば好みも変わるので微調整はしますけど、基本的には現地に合わせることはあまりしないようにしています。僕が美味しいと思うものをできるだけ美味しく出したいのと、基本的に好みというものは、何を食べて育ってきたかなので勉強してもわからないんですよ。
実は、難しいのは好みよりも人の問題で、具体的にはスタッフの育成、チームビルディングです。日本人は日本人の大変さ、中国人には中国人の、アメリカ人にはアメリカ人の大変さがあります。僕に求められている役割も国によって違うので、僕はいつもその国のチャンネルに合わせるという感覚でいますね。

カクテルクリエイションの思考法

戸門:日本の伝統素材をカクテルに取り入れる先駆者として知られていますが、「次に来る」と感じている素材カテゴリはありますか?

後閑:正直いうとわかりません。トレンドは追うよりも、どちらかというと常に自分の中でのトレンドを追求してきた感じなので。今の僕のトレンドはローカルの日本のフルーツ、焼酎、日本酒、あとはカクテルそのものの発酵ですね。

戸門:カクテルに発酵は酸が効きすぎたり、意外と難しそうに感じるんですが。

後閑:カクテルは最終的な着地をどこにするかなので、発酵の酸がたってもネガティブな味にならなければすごく面白いものになる。僕らがカクテル始めた頃、酸はレモンとライムしかなかったんです。でも今はいろいろなところから酸を取れる。あえて酸っぱいりんごや熟していないフルーツを使った酸はレモンやライムとは違う酸の立ち方をしますし、甘みも、甘味と奥行き、甘味と深み、甘味と香りみたいな感じでいろいろな使い方があります。材料へのアクセスが良くなって、引き出しがすごく増えましたね。

戸門:アルコールに比べて、ノンアルコールのカクテルの難しさはどこにありますか。

後閑:ノンアルがアルコールよりも難しいのはボディ、つまり味わいを作る部分と、テクニカルな部分の両方ですね。アルコール飲料にすれば度数が高ければ高いほど「強度」が上がります。常温保存ができて、開封後も風味があまり変わらないのですが、アルコールがないとそこがすごく弱くなります。味は甘ったるくない方がいいのに、アルコールがなくて甘みが少ないと強度が弱くなります。フレッシュであることも強度とは逆方向です。解決策としては蒸留と醸造なんですが、これは手間がすごいかかるんですよ。そこも難しいところです。

戸門:香港の「GOKAN」のメニューは5つの味覚プロファイル(甘、酸、辛、苦、鹹)に分類されていて、日本料理の伝統である「五味」の概念を取り入れていますね。その知見を食品や飲料メーカーに提供していくとしたら、どんなことができると思いますか。

後閑:たとえば市販の缶チューハイの味って、桃とかぶどうとか、だいたいみんなが知ってるものですよね。そこにみんなが知らないものを1個入れると差別化ができます。たとえば知ってるものと知ってるものを組み合わせてちょっと違うもの、たとえばほうじ茶とアールグレイでアールグレイほうじ茶とか、パッションフルーツにティムールペッパー(ネパールの胡椒)を入れて香りを良くするとか。そこは僕らの得意な部分ですね。あと、外国人の好みのツボは日本と全然違うんですけど、僕らはずっと海外で仕事してきたので、それを知っていることも強みです。

焼酎や泡盛はまだまだ伸びる

戸門:先ほど「人の問題は難しい」というお話がありましたが、複数の国で店を運営されていて、スタッフへの伝え方で大事にしていることはありますか?

後閑:スタッフには、行動は必ず理由とセットにして伝えることですね。営業中、突発的に指示しても伝わらないことは多いので、作業としてではなくカルチャーとして伝える。一個一個の動作を教えるのは途方もない作業ですが、「『The SG Club』はこういうものを目指していて、こういうプロセスがあるから、こう行動する」と、カルチャーとして落とし込むようにしてますね。そうすればお店が増えてもサービスの濃度が薄まらないというか、理念があれば大丈夫だと思うんですよ。

SG Groupには理念が2つあって、「バーをみんなのものにする」と、「國酒を世界へ」。バーの魅力を伝えて、バーを日本人にとって普通のものにしたいということと、「國酒」つまり焼酎、泡盛、日本酒のことを指しますが、焼酎や泡盛の作り手と商品を開発し販売することを通じて、彼らをサポートしたい。この2つを会社のミッションとして掲げています。バーを通じて文化の継承をしていきたいということですね。

「國酒」のうち焼酎や泡盛は、それぞれ500~600年の歴史がある中で、泡盛だと現在40~50ほどある蔵の90%以上が赤字なんです。なので海外に販路を広げたい。日本食とセットでレストランへ売り込んでも、食事と一緒に蒸留酒を飲む文化がある地域の方が少ないので、バー的なアプローチをしなきゃいけない。そこを工夫すればまだ伸びる余地があります。

戸門:いろいろチャンスありそうですね。

後閑:実際うまくいった例もあります。メキシコのメスカルという地酒は、何百蔵あるうちのちょっと前までは10%ぐらいしかラベルを持ってない、いわゆる田舎の蒸留酒だった。そこからアメリカのバーテンダー達に「このスモーキーな酒うまいね」と注目されるようになり、今では世界中でメスカルを置いてないバーはないくらいになりました。だから焼酎も、何かのきっかけでアメリカで焼酎ブームが起きて、まずカクテルで流行って、そのあとにトラディショナルな焼酎の良さが再発見されたらいいなと思いますね。

戸門:JALやオーデマ・ピゲなど飲食の枠を超えたお仕事をされていますが、企業ともっとこういう組み方ができたら面白い、というアイデアがあれば教えてください。

後閑:AIに興味あります。AIで飲食業が今後どうなっていくのかも含めて、そちらのプロの人とコラボしたら見えてくることもあるでしょうし、逆に変わらないものも明確になるでしょう。

戸門:AIはうちでもサービスを作っています。食品や飲料のメーカーさんに対して、たとえば今後シェフの方々にサンプルを提供していただいたフィードバックでレシピを作って、それをAIで管理できるワンストップのサービスを提供していますので、ぜひ後閑さんとも一緒にお仕事したいですね。

バーをみんなのものに

戸門:今、飲食の仕事を担う人が減っていますよね。だから子どもたちに飲食やバーのお仕事にどう興味を持ってもらうかも、長期的に見ると大事だと思うんです。食育はできても、小さい頃からバーテンダーを目指すのはなかなか難しいと思うのですが、何かアイデアはお持ちですか?

後閑:いわゆる昔ながらのバーだけではなく、ノンアルコールのバー、バーの要素があるカフェ、バーの要素がある居酒屋みたいに、バーを多様化していってもいいんじゃないかなと。うちはレストラン寄りの「The SG Tavern」(東京)、居酒屋業態、コーヒー業態、ラテンアメリカコンセプトのバー、それぞれすべて違う展開をしています。沖縄の「El Lequio(エルレキオ)」は家族で旅行に来たゲストも楽しめるようにお子様 OK にしていますし、あと東京の「æ(アッシュ)」もカフェでもあるのでお子様もペットも OK です。僕らの世代はバーやバーテンダーって暗くて近づけないイメージだったので、バーテンダーに接する機会がほとんどなかったんです。だからレストランの入り口にウェイティングバーがあるみたいに「カフェにバーテンダーがいる」を普通にしたい。たまにノンアルコールカクテルを子供に作ったりすると、すごく喜んでくれるんです。大人になっても「あの時見たな」みたいなのは残ると思うんですよね。

戸門:金沢の「すし処 めくみ」さんが、一年に1回、クリスマスの定休日に市内の養護施設の高校生を招待するというイベントをもう7~8年やっておられます。20名の高校生たちを相手に、寿司屋で働く良さや、魚の生産者について大将が語ったりもするそうです。僕もこの社業を通して社会に何か還元しようと考えた時に相談をもらって、そのアイデアを拡大するプロジェクトを始めました。もし「めくみ」さんのようなことを100店舗でやれば、単純計算で2000人ぐらいサポートできます。そこで「めくみ」さんのような店の本気の仕事ぶりを見た若い子たちが、飲食の世界に入ってくれたらいいなと思っています。

後閑:素晴らしい試みですね。当たり前ですが、高校生はバーの世界にはなかなか触れる機会がないので、そういうのはバーでもやってみたいです。
バーの業界は、他の料理業界とは異なり、国境を越えたつながりが豊富です。アジア、ヨーロッパ、アフリカ、北米、南米、さまざまな国の文化と交流する機会がありますし、バーショーなどのイベントでは世界中の人々が集まります。このような国際的なつながりは、若い世代にとって大きな魅力だと思います。うちの社員がみんな長く働いてくれている理由のひとつに、世界を見られるという魅力はあると思うんですよね。なので、そういうところから若い子たちに伝わって興味を持ってくれたら最高ですね。

Text by 星野うずら

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SG Group ・ファウンダー

後閑 信吾

Shingo Gokan

SG Groupファウンダー。NYで研鑽を積み、2012年「Bacardi Legacy」世界大会優勝。2014年に上海でSpeak Lowを開業後、東京、NY、香港など世界各地に12店舗を展開。世界主要バーアワードで数々の栄誉を獲得し、國酒を世界へ広める商品開発にも取り組む、国際的に最も注目されるバーテンダーの一人。

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