
インタビュー
2025.06.20
九州・福岡の地で
「チームとして戦っていく」をつくる
2002年、福岡・西中洲に「ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ」を経て、2023年に「ゴウ」を開業した福山さん。タイ・バンコクの著名シェフ、ガガン・アナンドさんとの親交を深めたことが転機となり、現在の「ゴウ」の建物に共同監修店舗「ゴウガン」も開業。「ゴウ」は2016年に九州では初めてアジアのベストレストラン50にランクイン、その後も数々の実績を重ねています。このたび、料理人と企業をつなぐウェブプラットフォーム「TasteLink(テイストリンク)」に加わっていただくにあたり、ガガンと出店したいきさつや、九州・福岡という土地で「チームとして戦っていく素地を作りたい」と考える理由について語っていただきました。

いただいたオファーは全部やりたい
戸門:ゴウさんの入るこの建物、「ゴウ」ではゴウさんの料理が食べられて、「ゴウガン」ではガガンとのコラボでアラカルトも食べられますね。このスタイルは、どうやって決まったんですか?
福山:ゴウガンは当初、ガストロノミー的な少人数の店になる予定でした。でもコロナがあってガガンも大変で僕もどうなるか分からないときに、2人が監修という形で携わるカジュアルでやれればとゴウガンを出したんですね。最初のころはスパイス遣いとか、料理にガガンのエッセンスが強すぎて、福岡の人に頻繁に来てもらう感じにはならなかったので、試行錯誤しながら地元のゲストに好まれるように少しずつ調整している感じです。今は下でバーベキューもやっていて、お肉や料理はセットされているので、手ぶらで来れてドリンクも飲み放題という便利さを楽しんでもらえればなと。それ以外にフィンガーフードを中心にケータリングしたり、いろんなことをして認知度を上げています。
戸門:ゴウさんの中で、お仕事のオファーを受ける受けないの線引きはどのあたりにありますか?
福山:いただいたお話は、基本的には全部やりたいと思うんですけど、今のスタッフでできるかどうか、無理してやって反動こないかどうかで判断します。だけどこれをやることによって勉強になる、ブランド力が上がるものなら積極的にやっていきたい。

戸門:ゴウさん、移転してからも節目節目で大きなチャレンジをしておられますよね。いま食周りで取り組みたいお仕事はありますか?
福山:僕自身、開業から20年を超えて50代になり、スタッフのこととか色々なことを考えるともう一つステップを上げたいと思っていて、それと同時に、自分と同じかそれ以上の世代のシェフの方々も、ともに次のステップへと上がっていければと考えています。長年にわたって個人店を切り盛りされてきた先輩方は、まさに現場で鍛えられた職人であり、かつてはアナログな技術が主流でしたから多くの貴重なスキルをお持ちです。ただ、そのご年齢になると、個人店では若いスタッフの確保が難しくなったり、一人でゆっくりとしたペースに切り替えようとしても、その後の展開が見えにくくなったりすることもあるかと思います。一方で、地方のホテルや旅館などは現在も人手不足で、経験をお持ちの方が強く求められています。ですので、そうしたベテランの方々がこれまでの経験を活かしつつ働ける環境と出会えるようなお手伝いなどができればと思っています。
戸門:キャリアのある先輩方の第二の人生というか、キャリアが生かせる場はまだまだあるんじゃないかということですね。
福山:オープンした頃は満席にしたいとか有名になりたいとかの思いで始められますが、その後、ビジネスとして飲食店をどううまく続けていけるかが次のステップですね。
戸門:食材や調味料、調理器具など、オープン時からずっと使い続けているような、これは絶対なくてはならないというものはありますか?
福山:今使っている宮崎のメヒカリ、脂が多い深海魚なんですけど、それをアンチョビ仕立てにしたソースとかペーストは良いですね。北九州の合馬(おうま)のタケノコとかもとても甘くてよく使います。道具でいったらヘンケルのミルミキサーは回転数強くてある程度長持ちするので、愛用していますね。

日本の食材には良いものがまだまだたくさん眠っている
戸門:「食×〇〇」で実現したいプロジェクトやアイデアはありますか?
福山:シェフの方々と生産者の皆さんをつなぐような、お互いに新たな発見ができる仕組みをつくることができたら、と考えています。たとえば、先ほどのメヒカリのアンチョビのような、「一見プロっぽいけれど実は手作りではない」ようなアイテムを見つけて、シェフの方々にご紹介できると、現場としても非常に助かるのではないかと思います。そういったものがあることで、小規模なお店でも手軽に料理にひと工夫加えることができるようになりますし、たとえば九州の食材を東京のシェフが仕入れるといった、地域を越えたつながりも生まれるのではないかと感じています。
日本の食材って良いものがまだまだたくさんあると思うんです。特に洋食の料理人だと、1から10まですべてを作るのが正義という感じなんですけど、そうでないカジュアルな店だとありもので間に合わせていることも多く、でも、食べてもすべて作っているのか全然分からないほどレベルが高いものも多いです。作業量とおいしさとのバランスをうまくとっていかないと、仕事の働く時間との兼ね合いで、今後は続いていかないと思うんです。
戸門:仮にゲストに出すのを10としたときに、8割くらいは作ってあるものを提供して、残り2割は自分でエッセンスを足せるようなものを、シェフ向けにキュレーションしていくということですね。
福山:飲食業界は20年30年と続けるのは本当に大変で、社会情勢としても人件費も食材費も上がるし、今後どんどん厳しくなります。若い時は体力もあるし、あまり利益を出さなくてもなんとかなっちゃうものなんですけど、5年目くらいからメディアの露出も少なくなって、営業も大変になっていく。これまでの自分自身の経験を通じて得てきたノウハウや体験談を、ビジネスを自ら切り拓こうとしている若い方々に、少しでもお伝えできればと思っています。

戸門:コラボなどをやられて、こんな人とやりたいとか仕事したいとかはありますか。
福山:おかげさまで、いまは国内外の有名なシェフと仲良くしていただいています。一方で、九州にいても九州の食材とか食文化とか知らないことがまだたくさんあるので、これからは九州各県のレストランにオファーをかけたいと思っています。コラボして、そのシェフに各地の食材を見てもらって、お互いの経験や知識をシェアしていければ。有名店とのコラボももちろんブランディングとして必要ですが、それよりは、地元のシェフたちと交流して、九州の色々な食材とか文化を発見していきたいと思っています。
戸門:コラボの醍醐味は、シェフ同士のスキルを知れることはもちろん、相手が持ってきた食材を知れることがありますね。
福山:コラボって僕はあまり好きじゃなかったんです。昔は、料理を作る様子をあまり見てほしくなかった。だけどガガンとコラボするようになって、この料理をどんな組み立て方をしてるか、料理を一緒にやることで見えるようになると気づいたんです。そして自分自身の店の長所もはっきりしてくる。お店のクオリティアップが将来的にお客さんの満足度を上げていくのがコラボレーションだと思っています。
戸門:ガガンとコラボされて、国内のシェフと大きく異なることはありましたか?
福山:ガガンってずば抜けて変わってるんです。いろんなアイデアをどんどん出してきて、それがどれもぶっ飛んでる。最初にコラボした時も、自分だったらこの組み合わせはないだろうって思うようなことも彼はどんどんやっていく。会期中に料理をさらに変えることもあったし、へとへとになるんですよ。だけど僕にはない柔軟性、僕にないものを持っている。それはガガンも同じで、彼にないものを僕が持っているからいろいろなことができると思うんです。
戸門:いまゴウさんが、レストランを運営されるなかで将来的に目指していきたいのはどんなことですか?
スタッフと一緒に、大きな箱で飲食的に成功させていくことです。いろんなチームを作って、九州の飲食業界を盛り上げていきたいという思いが一番最初にあります。20~30年前は新しいお店づくりを個人でやるのは大変でした。今はワンオペのノウハウやシステムが整ってきてワンオペで独立もやりやすくなってきましたが、僕としては、いろいろなチームづくりをして、チームとして戦っていける飲食業界にもしないといけないなと思っています。
Text by 星野うずら

イノベーティブ・Goh(ゴウ)
福山 剛
Goh Fukuyama
福山剛シェフは福岡県出身の料理人。高校時代から料理の道に入り、2002年に自身の店「ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ」を開業。アジアのベストレストラン50にも選出されるなど高い評価を受ける。地元福岡への愛情を大切にしつつ、アジアの料理界との交流を深め、2023年に新店「Goh」をオープン。35年以上の経験と地元への想いを込めた料理で、多くの人々を魅了している。