インタビュー

2025.07.04

「自分にしかできない江戸料理」を掲げて人生の限界を突破する

東京・目白の老舗「太古八(たこはち)」で江戸料理を学び、28歳のときに故郷・秋田で自身の名前を冠した「日本料理 たかむら」を開業した高村さん。現在の「たかむら」は、国内で30店舗ほどしか選ばれない「食べログアワード」のゴールドを3年連続で受賞し、フランスのレストランランキングサイト「ラリスト」でも上位に入るなど、国内外で注目を集めています。このたび、料理人と企業をつなぐウェブプラットフォーム「TasteLink(テイストリンク)」に加わっていただくにあたり、いまの料理スタイルが確立された過程や、数多くの企業とのかかわりで心がけていることなどについて語っていただきました。

オファーを断ることは自分の限界を決めること

戸門:なぜ「たかむら」はこれだけの高い評価を受けるようになったのでしょうか?

高村:日々はほんとうに、紙を1枚1枚積み重ねるように同じことの繰り返しです。美味しい料理を作ることでゲストに喜んでもらうということのみに特化してやる。もちろん料理だけではなくて雰囲気や照明の色、四季の草花を活けることまでトータルで「美味しい」だから、それを絶対に妥協しないように同じことを毎日繰り返すのが、評価につながっていったのだと思います。秋田の若手たちも、それなら自分の地元でも商売できるんだという認識が生まれ始めてきたようで、秋田にどんどん戻ってきてお店を出し始めたので、良い流れだと思っています。

戸門:高村さん、昨年麻布台ヒルズに「別邸やまじん」として期間限定のお店を出されましたね。

高村:最初オファーがあったときの条件は、秋田から移転することでした。でも地元の秋田を捨てることはできないなと思ったんです。「たかむら」が東京に移転したら、東北エリアのフードシーンは非常に寂しいものになると思うんです。東北エリアで食べログゴールドを取ったのは「たかむら」しかないし、東北を巡りながらグルメツアーをするルートを作ったのもうちだし、だから秋田から東京に戻るなんてことは絶対やっちゃいけない。でも森ビルとの契約では「高村さん自身が必ず関わること」というのが条件だったから、完全移転は無理なので、東京に月の10日間だけ開けるシークレットレストランを作るという関わり方でいいかって打診したんですよ。それがOKになったので今があります。

戸門:高村さんがお仕事を受ける際の基準は何かありますか?

高村:基準は、自分がやった時に自分がかっこいいと思えるかどうか。基本オファーは何でも受けます。なぜかというと、オファーが来て、断った段階で俺の限界それかって思っちゃう。やれないのか。たとえば、麻布台ヒルズからオファーがあったときだって、移転はできない。でも体はひとつしかない。普通だと断りますよね。でもやれないって断っちゃったらそこで限界だから、やるって言っちゃう。で「やるのか俺」と内心で思いながらも、やれる方向で考える。そうするとポップアップで良ければやれますって感じで落としどころを探せる。人気商売、声をかけられなくなったら終わりだから。そういう時にちゃんと手を挙げて、それ参加したいんだけどってすかさず言っていくことが大事です。

戸門:そのような企業からのオファーを受けるときに、心がけていることはありますか。

高村:レスポンスは早くするようにしています。企業の人たちが仕事をする時は、私に声をかけても、ダメだったら次だれに声かけるかも必ず決めてるんですよ。だから「スケジュールを確認して来週までに連絡します」とか「3日待ってもらえますか」は通じないんですよ。「忙しそうだから次行こう」となる。ポンポンポン、これぐらいのスピードじゃないと。
あと、物を作ったあと売り場所どうするっていう、出口を先に考えることは心がけていますね。これを作ったらあそこで売るという動線を作っておく。だからコンビニ大手とか、いろんなところと契約を結んでいます。そうすることによって、高村に頼めば出口まで探してくれる。作ったものを宣伝して売り先まで探してくれるという信用になります。秋田ではコンサル的な会社も立ち上げたんです。それで、今だいたい30社ぐらい契約社があるんじゃないかな。村の活性化プロジェクトから何から、いろんなことやってますね。

戸門:それはすごい。ビジネスマンの発想ですね。出口のことはだいたい後手になって、作った結果どうしようになりますね。

高村:みんなモノづくりは得意だし、いいものを作れば売れるって思っちゃうでしょ。売れないよ。美味しいものを作っただけでは料理店は繁盛しないですよ。逆に味はそれほどでもなくても繁盛している店はいっぱいあります。なぜだと思います? それはプロデュース力だったり、オシャレ感だったり、琴線に触れる付加価値って絶対あるんです。

事務所入りしたきっかけ

戸門:高村さん、いま事務所に入られていますよね。どのようなきっかけがあったんですか?

高村:JR東日本の「TRAIN SUITE 四季島」の料理人に選定される時に、分厚い契約書を全部チェックしなきゃいけなくなった。契約書のどこをどう見ればいいのか、弁護士さんなどプロに見てもらおうと思った時に、チェックする費用は1枚単位って言われたんですよ。つまり、もし1枚100円で300ページあったらチェックだけで30万円かかるわけで、それでもし契約しないとなったら30万円どぶに捨てることになる。困って実業家の本田直之さんに相談したんですよ。そのときに本田さんが、「マネジメントに特化した事務所に入ればいい」と助言してくれて、それで入ったんです。以後、本田さんにはとてもお世話になっていて、今のたかむらのあり方・考え方は本田さんのお陰といってもいいくらいなんです。今の事務所は弁護士も司法書士もいます。困ったことはその分野を知る人にまず相談するのは大事ですね。

日本人ってお金の話が下手ですよね。自分の評価額を決める、たとえばイベントでギャランティーいくら欲しいって訊くと、絶対安く言うの。5万くらいでいいですよとか。でもそこでもっと高い額を提示していかなきゃいけない。自分の評価は、いいも悪いも受け止めながら、自分をブラッシュアップしていくのが必要だなと感じる。料理人はただ料理だけをやるんじゃなくて、プラスアルファのところでもちゃんと稼げていけるんだなっていう。今後に続く若手たちが料理人という職業を憧れるようにしたいですね。

戸門:今、企業やサービスなどと組んでやってみたいお仕事はありますか?

高村:店舗プロデュースや商品の開発ですね。いま、所沢にあるスパリゾートのフードコートの監修をやっています。頭の中で出来る仕事なので、身体は2つなくていい。そういうロイヤリティでの収入なども得ていかないと、個人店は先細りになってきます。秋田にいると、コロナの状況はまだ終わってないと感じます。

戸門:食材や調味料、調理器具など、オープン時からずっと使い続けているような、これは絶対なくてはならないというものはありますか?

高村:使いたいのは比内地鶏、あとはこの時期なら山菜とか、秋田の「色」が出るもの。東京は豊洲に何でも揃うんですけど、良いものがあまりにもありすぎる。秋田の場合だと、ものがないからブラッシュアップしていくためにはアイデアも絞り出さないといけない。東京では江戸料理屋ですし東京らしさを出したいから、技術的なところやフィロソフィーは太古八の料理なんですけど、東京で一番いいものを豊洲で手に入れて、秋田と東京の差別化を図っていくことが重要だと思っています。そうすると、東京で食べた人が秋田に来てくれて、秋田で食べた人が東京に来てくれるんですよ。

戸門:高村さんは言葉に重みと強さがありますよね。高村さん自身から見て企業とお仕事するときどういうところが強みなんでしょう。

高村:太古八の江戸料理という唯一無二のものを、私しかやってないところですね。江戸料理の明確なコンセプトは、華美でなく派手でなく美しく。江戸幕府の時代だから武士の料理なので、気風(きっぷ)の良さと粋があり、かっこいい。それは生き方にも通じるんですよ。コンセプトが明確だから企業も仕事を頼みやすいんだと思います。
私は太古八の江戸料理しかできません。ほかの料理はできないですよ。でも、それが逆に、自分の強みになっていると思います。これしかできないことが、逆に私に頼むんだったらこれですよという明確な1本の芯になっている。だから料理は自分の生き方そのものです。

戸門:高村さんの仕事人としてのゴールや理想は何でしょうか?

高村:自分の中では65歳で引退と思っています。今年54歳なのであと11年。そのなかで、料理人が生きていくためにはこのようにすればいいというのを作り上げたい。レストランを作り上げるのは当たり前。どうやったら外から声がかかるのか、どうやったら地方でも続けていけるのかを説明できるようにしたい。感覚とか運ではないものを説明できるように今後10年やっていけたらいいなと思います。

Text by 星野うずら

高村 宏樹のプロフィール画像

日本料理・日本料理 たかむら ・菓子たかむら

高村 宏樹

Hiroki Takamura

高村宏樹さんは、秋田県秋田市出身の日本料理人で、江戸料理の伝統を大切にしながら現代的な感性を取り入れた料理を提供しています。 東京・目白の「太古八」で修業し、24歳で板長に抜擢。28歳で地元秋田に「たかむら」を開店しました。 「たかむら」はTabelog GoldやLa Liste、OADなど国内外で高い評価を得ています。また、農林水産省の料理mastersブロンズを受賞し、JR東日本トランスイート四季島の料理人も担っている。

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