
インタビュー
2025.06.27
世界から注目される「ラシーム」高田裕介さんが考える、世の中も自分もともに切り開く「仕組み作り」
2010年に大阪・本町に「ラシーム」を開業以来、伝統的フランス料理を再構築した料理で「アジアのベストレストラン50」の上位に連続してランクインするなど、国内外から注目を集める高田裕介さん。このたび、料理人と企業をつなぐウェブプラットフォーム「TasteLnik(テイストリンク)」に加わっていただくにあたり、個人店の枠を超えたビジネス展開へのアイデアや、業界全体が発展するにはどうしていくべきかについて語っていただきました。
災害復興の食事提供システムは、当事者以外の人間にまかせる
戸門:食産業以外の分野で、連携してみたい業種や、やってみたい仕事はありますか?
高田:災害時の食事提供システムは、考え直したい仕組みのひとつです。災害救助の仕組みは、災害が起きてから考え始めるのではなくて、たとえば「国にこういうものがありますからこういう時はこうします」という枠組みを初めに作ってしまえばいいと思うんですよ。ワールド・セントラル・キッチン(米国に本部を置く非営利非政府組織。世界各国の自然災害の発生に際して食事を提供する)は食材は冷凍食品会社が供給しているんですよね。じゃがいもなど食材は地元で全部調達して、たとえばミートボールのように煮込みを作りますとなったら、リストアップしてあるレシピにシェフがポンポンと食材を当てはめてそのまま流す。そういう仕組みづくりにもっとコストをかけたほうがいいんじゃないですか。
戸門:支援したくても現実問題としてできない料理人たちにも、可能性が広がりますね。
高田:アイデア出しなら現地へ行かなくても協力できます。アイデアはどんどん出てくると思うから、そこから商品化したりできたらいいですね。たとえば大手の冷凍食品会社に、新たな企画としてプレゼンもできますし。アイデアをすぐにコンペで集約できるような投票システムと、オンラインチャットでやりとりして決定できるようなシステムを作っておけば、決定後すぐに製造ラインに依頼できて、無駄のない動きができるはずです。オンラインで出来ることが増えたいまの時代、課題解決のためにみんなが実際に顔を突き合わせることは必ずしも必要ないんじゃないかと思うんです。
戸門:災害復興は、仕組みを作ってうまく誰でも支援に回れるモデルが理想ですよね。
高田:当事者以外の人も支援にどんどん関わるべきだと思うんですよ。支援の環境をだれにでも提供できる方がフェアじゃないかと僕は思う。当事者ではないから好き勝手言うかもしれないけど、当事者じゃないからこそ言えることもあると思うんです。
ミールキットづくりは、災害が起きていない地域の料理人にまかせればいいんです。そうすれば「あの人は協力しているのにあの人はしていない」が生まれないし、被災したシェフたちだって、炊き出しで使う時間のいくらかでも自分自身の生活の立て直しに使える。個人店の料理人は時間もないし資金の余裕もないから、災害復興の手伝いに行きたくても行けない。それで申し訳ないとか後ろめたく思ったりとかが減ると思うんですよ。
戸門:食材や調味料、調理器具など、オープン時からずっと使い続けているような、これは絶対なくてはならないというものはありますか?
高田:ピーラーですね。ピーラーは何百個と使ってきましたが、何となく使いやすくてこれを買ってしまいます。
50代で引退したい
戸門:海外のレストランやシェフで、一般の方向けの商品開発で参考になりそうな人はいますか?
高田:台湾の「ムメ」ですね。旧正月とか年中行事に欠かせないアイテムに絡むのが上手で、月餅のようにローカルに販売できるような商品を出しています。ムメ自体は実際の製作には関わらないでうまくやっている。
僕は50ちょっとぐらいで引退したいと思っているので、リタイアの仕方をどうするかはいまの課題です。
今のビジネスの規模がもうちょっと大きかったらいいんですけど、レストランでの売り上げは結局、1食かける席数でしかないから上限があります。いまのような個人店をそのままやり続けても、自分の子に普通に生活できるレベル程度の貯蓄を遺すのすら難しいと思うんです。
ファインダイニング以外の業種、たとえばビストロなどだと規模が大きくできます。一般的にカジュアルになればなるほど規模は大きくなって、100億円、1000億円の世界になる。いまの路線でやり続けていても収入の限界があるのはわかっているわけだから、いまとは違う事業も考えていかなければならないと思うんですよ。
そうすると、ビジネスの規模として日本だけでやるより海外に出ていった方がずっと大きくできるということも考えると、海外との協業も視野に入れた方がいいかなとなるわけです。今はピークでもあと数年で多分ピークアウトするわけだから、じゃあ次ってなった時は、将来的には他業種や別の事業と組んでいくことが現実的な路線かなと僕は思っています。

フランス料理・La Cime / パン・ベーカリー・QUOI
高田 裕介
Yusuke Takada
高田裕介シェフは、奄美大島出身の1977年生まれ。フランスや大阪での修行を経て、2010年に大阪で自身のレストラン「La Cime(ラシーム)」を開業。ミシュラン二つ星や「アジアのベストレストラン」など数々の評価を受ける、革新的なフリースタイルフレンチの実力派シェフ。27年の経験を活かし、常に新しいフレンチの可能性を追求している。